失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
亜美は大翔の家の前でようやく1つ気が付いたことがある。
「佐伯さんがいない……」
佐伯さんがいないと迫力がでない。
「ま、いっか」
あたしだけでも、十分迫力は出るだろう。
ピンポーン
意を決して押したインターホン。
出たのはもちろん知らない人。
自分の名前と、突然の訪問を詫び、社長に会いたい旨を伝える。
しばらく待っていると、返答があった。
「斎藤はただ今出勤しておりますが、深瀬様さえよろしければ、急いで帰宅するとのことですが、どうなさいますか?」
そんなの、決まってる。
「待ってます」
「かしこまりました。すぐに案内の者を向わせますので少しお待ちください」
「はい」
会話が途切れてから数十秒で燕尾服を着た初老の上品なおじいさんがやってきた。
「お待たせいたしました。それではご案内いたします」
彼はゆっくり、にこやかに歩きだした。
亜美はその人に、緊張しながらも、それを隠しながらついていく。
――もうすぐ、会える
正直、ノープランだった。
何も計画なんてない。あるのは勢いだけ。