眠れぬ夜は君のせい

├どんなに美しいものよりも

今日は、あの人の命日だ。

シトシトと静かに降る雨を見あげながら、窓辺に写真立てを置く。

優しく笑っている、あの人の写真。

私が好きだった、あの人の笑顔。

それを眺めた後で、隣に花を添えた。

ライラックの花――あの人が好きだった花。

――ライラックの花言葉は、“初恋”って言うんだ

聞こえてきた声に、私は後ろを振り返る。

いない。

振り返るたび、何度思ったのだろう。

あの人は、もういないのに。

いないはずのあの人の声が聞こえるたび、私は振り返ってしまう。
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