眠れぬ夜は君のせい
この子は、何を言っているのかわかっているのだろうか?

「俺は、藍子さんを悲しませない。

藍子さんに、寂しい思いをさせたりしない」

「やめて…岳…」

耳元でささやかれるテナーボイスに、震える。

「藍子」

呼び捨てで名前を呼ばれたと思ったら、組み敷かれた。

氷のように冷たい床。

岳と視線がぶつかる。

今にも泣きだしそうで、苦しそうな目。

「兄貴じゃなくて……俺を見てよ」

岳の唇が動く。

「兄貴のことを忘れたいんだったら、俺を見てよ」
< 181 / 252 >

この作品をシェア

pagetop