眠れぬ夜は君のせい
そう言った俺に、あげはは首を横に振った。

「嫌じゃありません、とても気に入りました」

「そうか」

気に入った、か。

彼女を見て感じた印象でパッと思いついた名前が、あげは蝶だった。

うっかりしたら、すぐに逃げて行くそれだ。

どんなに手を伸ばしても、簡単につかまえることはできない。

だから、あげは蝶だった。

飛んで行かないで欲しい。

逃げないで欲しい。

そんなことを思っている自分に、俺は思わず笑った。

自分が彼女に抱えているものを何にも知らないで――。
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