渇いた詩
相手の男性はゆっくりとあたしに近付いてきた。



あたしの好きな金色の髪。


あたしより少し高い身長。


あたしだけに見せてくれる笑顔。



「今日は来て頂いてありがとうございます。……桜さん」


あたしの好きな、声。


「……久、弥っ!!!」



なんで?



どうして久弥がここに?



「一ヶ月前、桜のお父さんからこのお見合いの話をもらった。『娘とお見合いしてくれなければ事業提携を切る』と、ね」



「事業、提携?」



「お前、自分の父親の仕事くらい把握しておけよ」


お父さんの仕事?



うちのお父さんは普通の一般的なサラリーマンだ。



「久弥くん。私の仕事じゃなくて桜の祖父の仕事だよ」



お父さんが隣でそんなことを言っているけど頭が追い付かない。



あたしの、おじいちゃん?



「あぁ、そうでしたね。桜、桜の祖父である塚原 峰夫氏は海藤グループの産みの親なんだよ」



へっ……。



何、それ。



初耳なんだけど。
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