ありのまま、愛すること。
ホスピスの患者さんたちの顔はさまざまです。

何かを恨んでいるような表情の患者さん。どこか遠くの一点を見つめ、何かを考え込んでいるような表情の患者さん。

こんな表現をするのは申し訳ないですが、本当に意地悪そうな表情の患者さん。

一人ひとりの生き様が、死を目前にして、一気に、体全体、顔全体に表現されているのだと感じました。

さて、そのなかで、先述の「京子さん」。

この人は、「幸せな人生」を生きてきたのだと思います。

いつも笑顔なのです。末期癌は、痛みも激しいと聞いています。

にもかかわらず、いつも笑顔なのです。

私に、最初に手を振ってくれたのも彼女でした。

食事の時間には、隣の患者さんに、「美味しいよ」と、不自由な手で一生懸命に梅干しをあげようとするのです。

そういえば、私がホスピスにいる間、家族が来たのは京子さんだけでした。

「幸せ」とは、自分の人生を振り返り、「幸せな人生だった」と思えることだと思います。

「幸せ」とは、そんなことを考えずとも、いつも心豊かに生きていることだと思います。

「幸せ」とは、感謝と共に生きていくことだと思います。

人が、人として、人が本来持って生まれた美しい素質である「優しさ」や「思いやり」や、「謙虚さ」や「強さ」や「誠実さ」や「感謝する心」を高めようとするプロセスのなかで、周囲の幸せにどこまで関われたかが、その人の人生の深さを決めるように思いました。
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