午睡は香を纏いて
今度こそ、シルさんは出て行った。

一人きりになって、近くにあったカウチに座り込んだ。
目の前の質素な作りのテーブルの上には、湯気の上るトレイが置かれていた。
食欲、ないんだけどな……。あ、でも。

思いついて中身を覗くと、パンが二つと、野菜のスープ。炙った肉が少し。それと、並々と注がれたぶどう酒がのっていた。

奥市場の廃れ具合を思うと、豪華な食事だと思う。
だけど、港市場でちらりと見た飲食店の食事からしてみれば、比べようもないほどに質素だ。

通りを一つ違えただけなのに、こんなにも差がある。
たった一つ違えただけで、命までも搾取されるのだ。
ここは、そんな世界で、あたしはそこに足を踏み入れているんだ。

思わず溢れた涙が、スープに落ちた。



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