午睡は香を纏いて
『命珠維持のために、民の命が搾取され続けているんだ。
さっきのマダムの説明だと、日に二人、それに加え、罪人扱いとして何人も。
奥通りの民は、命珠の餌扱い、ここは餌場ってわけだ』

『餌場、ってそんな……』


カインの言葉に、自分の顔色が変わるのが分かった。


『なんで? どうしてそんな酷いことがまかり通ってるの? 誰も非難しないの?』

『誰も非難できないほど、あいつは力をつけてしまったんだよ』


は、とセルファを見れば、出窓から外を見下ろしながら続けた。


『神殿で最も力のあるのが大神武官なんだけど、そのゼームは今やリレトの傀儡(かいらい)で、奴の言うことなら何でも聞んだ。ということは、神殿内は奴が牛耳っているも同然。
それに加え、奴は命珠を使い、医師でも手の施しようがない難病をことごとく治癒させた。それも、恩を売れそうな貴族連中だけにね。
神殿内にも、王宮内にも、リレトを表立って非難できるような人間はいないさ』

『そん、な……』


毎日、誰かが不条理に命を奪われることを、非難できない?


『そ、それならせめて、みんなで逃げ出すことはできないの? ここにいたら殺されちゃうんでしょう!?』


逃げてしまえばいいんだ。ここから離れたところへ。


『どこへ? この国は海に囲まれた孤国だ。海路は国が押さえてるから簡単に出国もできない。逃げる場所なんて、ないんだよ。
それに、もし逃げ出したら身近な者が罰せられることになってるんだよ。自殺も同じ。だから彼らはお互いを監視している。誰かのせいで自分の命が刈り取られないように』
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