さよならアンブレラ
「なに?」
「重大発表です」
「な、なに」
「だだだだだだだっ。好きな人ができました!」
 いつもより少しテンションが高い彼女は胸を張って言う。
「へー」
「………それ、だけ?」首を傾げる。
「……えー………うん、おめでとう」
「ありがとう!」
 嬉しそうに、花みたいな笑顔でみっちゃんが言うのを見て。
 私は、自分の中の何かがわずかに崩れてゆくのがわかった。
 でもそれはきっと幻覚。幻想。私たちの日常に変わりはなくて、大したドラマもロマンもなくて。
 それでも、ふと歪みそうになった顔を、拳に力を入れて必死に保っていたからか、私は次の彼女の声をよく聞き取れなかった。
「――――――なんだけど、」
「ごめん聞いてなかった」
「ひ、ひどいカノコちゃん! わたし大切な話してたのにっ」
「ごめんごめん、で、なんだって?」
 テンションがなんだかおかしいまま平然と彼女が口に出したのは、
「もう告白したんだけどね?」
「ぶふっ!?」
 ここで口に何かを含んでいたら私は間違いなく吹き出していた。
「なにその反応ー」
「え、つーかだって早くない!? だってだってだって今聞いたのに好きな人いるって? なにその展開少女漫画でもあるまいしッ。あ、さては私をはめようとしてるねみっちゃん。今日はエイプリルフールじゃないよさあ吐け真実をっ」
 ぐむむむ、と彼女のほっぺを左右に引っ張り尋問するように急き立てる。みっちゃんは途端に眉尻を下げて口を尖らせた。
「嘘なんかついてないよう。本当に告白したの。そりゃいきなりだってわかってるけど」
「なんで?」
「なんで、って言われても。……強いて言うなら、判らなかったの、好きな人ができたらどうすればいいか。こんなの久しぶりすぎて」
 はた、と自分がしたことに今突然気づいたようにおろおろしはじめる。私も半分わけがわからなくやっぱりおろおろする。
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