双子月
「智也、私ね、夢を見たいの。
普通の夢でイイわ。
こんな残酷な現実ってある?
だけどね、この現実が、何よりも甘くて痛い、媚薬のような夢なの。」


普通の人が聞いたら、この子は何を言っているんだろう?と思うだろう。


しかし、智也には何となく分かる。


…何故ならこれが雫だから。

…そして、この関係こそが雫に対する診察だから。

…治療の一環だから。


一緒にいる理由の1つなのだ。


「雫に甘くて痛い夢を見せられるのは、
『彼』かい?
『朋香ちゃん』かい?
…それとも『僕』なのかな?」


雫の髪を撫でるのを止めて、ベッドの上できちんと雫と向き直る。


「智也が1番切なくさせてくれるわ。
貴方になら息の根を止められてもイイ。
私を甘い言葉で酔わせて、そして奈落の底まで突き堕としてみせて…」


智也の首に腕を回しながら、耳元で囁く。


「お姫様の仰せのままに…」


智也は、か細い雫の腰に手を回し、そっと抱き寄せた。



今宵の月は…

残念ながら泣き止んだばかりの空はまだグズっていて、光だけでなく影形さえも独り占めされたかのように姿を見せる事はなかった。


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