双子月
「そんなの知らないわよ!
『朋香』が楽をしたくて『私』を産んだんじゃないの!
なのに、『私』には消えろって?
ソレか、都合のイイ時にだけ出て来いって?
『私』だって1人の人間なのに!?」


その子は興奮して叫んだ。



「僕が『君』を認めるよ。
黒くて長い髪が良いなら、エクステでウィッグを作ろう。
服も黒い物を用意する。

その代わり、約束して欲しい。
周りを混乱させるような事は絶対にしない事。
もちろん『朋香ちゃん』自身に対しても。
僕が『君』の傍で話でも何でも聞いてあげるから、ゆっくりと『朋香ちゃん』の中にいる事に慣れていこう。

だから、ルールを決めよう。
そうだな…土曜の夜。
土曜の夜だけは、『君』が『朋香ちゃん』の代わりに表に出ておいで。
もちろん、無理に出てくる必要はない。
『君』も本当は『朋香ちゃん』が大切なんだよね?
だから普段は『朋香ちゃん』が平穏に生活出来るように、協力出来るよね?」


”認める”


その響きに、その子は落ち着きを感じた。


「そうだな…。
雨の下で生まれた『君』を…
『雫』と名付けよう。
これからよろしくね、『雫』」



こうして『雫』と智也の、土曜の夜の”治療関係”が始まったのだ。


朋香には「通は海外留学した」という事に全員で話を合わせておいて、林先生が週に1度、『朋香』の診察と『雫』の診察をそれぞれするという事で、両親も朋香の1人暮らしを認めた。


こうして1ヶ月の検査入院を終えて、同期達よりも5日遅れて朋香は大学に通い始めたのだ。




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