双子月

6…真・醒・嘲

誰もが呼吸1つする事さえ躊躇う程の張り詰めた空気の中にいた。

床の1点を集中して見つめ続け、視線を動かす事すら出来なかった。



「皆によく理解しておいて欲しいのは、『朋香ちゃん』は『雫』が表に出ている時の事を覚えていないという事だ。
本人は時々記憶が曖昧なのを、薬のせいだと思っている。

1番怖いのは、『朋香ちゃん』がまだ余裕のない段階で、自分の病気の本質を知ってしまう事なんだ。
自分の知らない間に”自分の身体”が”自分とは別の意思”を持って何かをしている。
だけれども、周りの人にとっては『朋香ちゃん』がやった事として受け止められている。

これは”ビリー・ミリガン”がそうだったんだけど、もし『雫』が犯罪でも犯して『朋香ちゃん』がその罪を問われたら?
自分の記憶に無いところで、ものすごく恐ろしい事が起こっていたら?
それを知った時、自ら命を絶ってしまう危険性を孕んでいる。

僕は、君達がそれぞれ難題を抱え、解決すべき時に直面していると思っている。
しかしその問題に向かい合う為には、この真実を知っておかなければ、結局はまた同じ過ちの繰り返しになると思っているからこそ話したんだ。

『朋香ちゃん』も『雫』も、それぞれ誰かと話をしなければならないだろう。
だけど、『朋香ちゃん』が『雫』の事を知るには、まだ時期が早いと思っている。
今、時間をかけて『雫』が『朋香ちゃん』の中にいる事を慣らしていっている途中なんだ。

もしこの中の誰かが『朋香ちゃん』に真実を話してしまうと、全てが水の泡になる。
1番危ないのは『朋香ちゃん』だ。
君達が本当に『朋香ちゃん』を大切に想うなら、『朋香ちゃん』と『雫』が同一人物であるという事を、『朋香ちゃん』に絶対に知られないようにしなければならない。
もしその自信がないのなら、『朋香ちゃん』に近付かないようにして欲しい。」



皆、ごくりと唾を飲み込んだ。



やっていけるのだろうか?


今までは何も知らなかったけど、上手くやってこれたと想う。

いや、何も知らなかったから、上手くやってこれたのかもしれない。

でも、知ってしまった今から先、上手くやっていけるのだろうか。




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