双子月
新しく始まった生活。


”溝口”から”有田”に姓が変わった。

前と比べて、決して裕福とは言えない家の中、人、雰囲気。



朋香は受験勉強に没頭する事で、煩わしさから逃げていた。


志望校を当初の予定と変えて、自分の住んでいる新しい家と、通が住んでいる前の家との中間地点にある高校を受ける事にしたのだ。


晴れて合格した朋香は、週末にそれぞれの親には内緒で通と逢うようにしていた。

1年後には、通も近くの男子校に受かった。



通と逢っている間だけは、一切の煩わしさから解放される。

お互いに、変わってしまった家の中での生活、新しい学校での生活、懐かしい過去の想い出。

何気ない事を、ファミレスのドリンクバーだけで延々と笑いながら語り合った。



離れて暮らすようになってから、朋香は通を、通は朋香を、より一層強く守りたいと、早く大人になりたいと願うようになっていた。



両親は2人が隠れて逢っている事に気付いていたが、何も言わなかった。

いや、言えなかったのだ。

自分達の身勝手で、あんなにも仲良くしていた姉弟の幸せを奪ってしまったのだから。

むしろ、こうなってしまった今でも、手を取り合って笑い合う事で道を踏み外す事なく大人になっていってくれるのならば、黙って見守っていたいと想う。

本当は、それすらも、自分達の身勝手な願いと知りつつも。




そうやって通との時間を過ごしながら、地元の大学に合格したのを期に、朋香は念願叶って家を出る事となった。



そう、この左手首から流れ出ている血は、4人が家族だという、通と同じ血が流れているという、たった1つの証拠。



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