双子月
「じゃあ、私達がお先に失礼します。」


と美穂は男2人にそう告げると、朋香の腕を取って中に入って行った。

いつもと違ってどこか強引な感じがする美穂を不思議に思いながらも、1歩踏み入った鏡の創り出す幻想的な世界に、朋香は一瞬にして惹き込まれた。

けれど、幻想的だと思ったのは束の間だった。



朋香は360度見回しても、自分がいる事に違和感を覚えた。




右を見ても左を見てもどこを見ても自分。

自分が手を挙げれば鏡の中の自分も同時に手を挙げる。



自分・自分・自分・自分…



どれが本当の自分?

ふらりふらりと鏡の迷路に迷い込んで行く朋香を見て、美穂は焦りを感じた。



朋香の姿に雫が重なったのだ。


反射して反射して幾重にも重なる”自分”と思しきモノに吸い込まれていきそうな儚い女性。


美穂は慌てて朋香の後を追い、その腕を掴んだ。


朋香も我に返ったように、ハッとその腕の感覚に振り返った。


美穂が、まるで大切なモノを失くしかけたような不安気な顔で、朋香にしがみ付いている。



「あ、置いてってごめん…」



謝る朋香に、美穂は、


「ううん、違うの…
ちゃんといてくれれば…それで良いの…」


と呟いた。




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