大吉男と大凶女
コーヒーをしっかりと飲み込んでから、あらためて恭子に聞いた。

「いくら忘れた?」
「んっとね、確かペットボトルのお茶を買ったから……三百五十円かな?」

拝啓、歩美さん。あなたの勘は見事に外れてました。敬具。

俺は財布を取り出して恭子に三百五十円を差し出した。

「えっ?」

恭子は慌てた風に受け取ろうとしなかった。

「いや、昨日それを拾った、俺が」
「え、ホントに!?」

口をおの字に開き、手を口の前に出す。マニュアル通りの驚き方だった。

「昨日オレも自販機でジュース買ったらさ、お釣りんとこにきっちり三百五十円」
「すごい偶然だねぇ」

差し出されたお金をまじまじと見つめながら、恭子はしみじみと言った。

「多分お前のだろ」
「かな?」
「だろ。ぴったりだし」
「じゃ、受け取ります」

ふかぶか〜、と礼をして俺の手の平から恭子はお金を受け取った。

「ありがとね」
「いや、別に偶然だから」
「いや、でもありがとうなの」

なかなかひきさがらないので、そのありがとうを受け取っておくことにした。

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