大吉男と大凶女
「よくコーヒーなんか飲めるね」

注文を恭子は真剣な顔で言った。俺も真剣な顔で返した。

「飲めないのか、コーヒー」

恭子は身をのりだしてまで言う。

「まっったく!!」
「ぷっ――あはははは!!」

そこで俺は負けて笑ってしまった。迫力負け、というか何と言うか。やりとりが面白かった。

コーヒーを真面目に飲めない、というだけの会話なのだが。

「あの苦いのが嫌なの」
「嫌いな人は大概その理由だよ」

テーブルへと届いたコーヒーをすすりながら一息ついた。

「未奈美はいつ頃来るんだ?」
「多分次ので来るんじゃないかなぁ」

普通そうだろうな。わかってはいたがなんとなく聞いてみた。

「そういえばね、昨日帰りに駅でジュース買ってたの」

唐突に恭子が話しはじめた。沈黙が続くよりはいいから非常に助かる。適当な相槌を打って返した。

「そしたら電車来ちゃってさ、電車乗ってから気付いたんだけどね」
「うん」

一口コーヒーをすすった。

「お釣りそのまま忘れちゃってさ」
「んん?」

コーヒーを口に含んだまま返したので言葉になっていなかった。
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