苦しみの(涙)
兄者がそっと髪にさしてあった簪を抜く。
「誰にもらった、の?」
感情のない瞳で問いかける。
「お吉、からもらった…の。一番きれいにできたからって。」
兄者への贈り物を探していたら、飾り屋のお吉がくれた。
お吉は飾り屋の次男坊で幼なじみだった。よく、うまくできたと言って飾りをくれる。
この頃は難しい細々とした細工もできるようになっている。
そして、私がもらったものは、藤の花がさがっている簪。
藤の小さなひとつひとつの花を美しく彩らせた簪だ。
小さい頃から知っているから、お吉がどれだけ不器用でどれだけ努力家なのか。
だから、この簪は本当に今までで一番きれいにできたのだろうと。