黒き藥師と久遠の花【完】
 半刻ですべてを準備すると、みなもはナウムや集まった部下たち十余名と共に、馬を走らせて城へと向かう。

 近づくにつれ、道の脇に倒れた者を何人も見かけるようになった。
 みなもはそんな人々を横目で見やり、顔をしかめる。

(ひどい状況だ……これを浪司がやったのか)

 あくまで体を痺れさせる程度の毒だ。
 しかしこの状況から言えることは、毒性の強い物を使えば、多くの人命を奪うこともできてしまうという事実。
 頭では分かっていたことだが、実際に目の当たりにすると肝が冷えてくる。

 毒を容易に使えば、取り返しのつかないことになるかもしれない。
 ふと、浪司がそう釘を刺しているような気がした。

 城の門まであと少しという所で、どの馬の足も止まっていく。
 ナウムや部下たちがどうにか前へ進ませようと足で腹を蹴っても、馬たちは頭を振るばかりで、言うことを聞いてくれなかった。

 真っ先にみなもは馬から降りると、ナウムの元へ駆け寄った。

「もうここまで毒が流れていますから、これ以上は馬で進めません」

「そうか、分かったぜ。……全員馬から降りて、こっちに集まれ!」

 馬を降りながらナウムが大声を張り上げると、部下たちは一秒を争うように機敏な動きで集まってきた。

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