黒き藥師と久遠の花【完】
「みなも、この人が女神の衣装を担当するエマ。仕立ての腕はヴェリシアで一番だよ」

 ゾーヤの紹介にエマは少し頬を染めると、みなもへ優しく微笑みながら手を差し出した。

「そんなに大げさなこと言われると照れてしまいますわ。……初めまして、みなもさん。貴方の衣装を手がけることができて、とても嬉しいですわ」

 細くてきれいな指だな、と思いながら、みなもは握手を交わす。

「こちらこそ、よろしくお願いします。女性の服には馴染みがないので、できればすぐに着られて動きやすい衣装だと助かります」

「あらあら、女性は美しくなるためには不便を厭わないものですよ。最高の女神になって頂くためと思って我慢して下さい」

 グッとエマの握手に力がこもる。どうやら自分の意見は却下らしいと、みなもは苦笑しつつ手を離した。

 不意にエマが他の針子たちへ視線を送る。みなももつられて目を向けると、彼女たちはどこかソワソワした様子でこちらの様子を伺っていた。

「フフ、みんな噂の藥師さんがどんな人か、すごく楽しみにしてたから……」

 噂……? 一体どんな噂なんだろう?
 みなもが首を傾げると、エマは口元に手を当てて愉快そうに笑った。


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