夏の空を仰ぐ花
あたしは釘付けになった。


極めて無表情なのに、空を見上げるその目元はあまりにも優しげで。


感情なんか無さそうに無表情なのに、その目だけはダイヤモンドダストのようにキラキラ輝いている。


この雄大な空を一瞬にして吸い込んでしまいそうな、真っ直ぐな瞳。


あの目で見つめられたら、あたしはきっと、息もできなくなるだろう。


そう思わずには居られないほど、透明度の高い綺麗な瞳を、彼は持っていた。


例えば。


汚れを一切知らない、無邪気な子供みたいな。


彼と同じ瞳を持っていた人を、あたしは良く知っている。


その人はもう、この世には居ないけど、知ってる。


だから、これほどまでに惹かれてしまうんだろうか。


今、目の前にいる、あいつに。


『翠』


ふと、耳の奥で甦ったのは懐かしい声だった。


『翠が世界中を敵に回しても、父は娘の味方だ。それだけは忘れるなよ、翠』


父はいつだって、優しい瞳をしていた。


無口で不器用で、言葉数が足りなくて。


でも、その分だけ、優しくてぬくぬくしたひだまりのような瞳だった。


流れる雲が、ゆっくりとはけていく。


『翠が世界中を敵に回しても、父は娘の味方だ』


再び、グラウンドに夕陽が燦々と降り注いでいた。



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