夏の空を仰ぐ花
「暑っちー! 真冬なのによう! 異常気象か」


結衣がゲラゲラ笑うと、明里が窓を全開にした。


「ヘイヘイ、空気の入れ換え! とーけーるうー!」


ビョオーと粉雪混じりの冷たい北風が、一気に教室内の温度を下げる。


「おっと、やべ」


補欠はあたしを無理やり剥がすと、スポーツバッグをひょいと背負った。


「部活遅れる! 行くぞ、健吾」


顔を真っ赤にして、教室を飛び出した。


「あー! 待ちやがれ!」


あたしはすぐに追い掛けて、廊下をすいすい駆け抜ける補欠の背中に叫んだ。


「甲子園連れてけー!」


補欠は一瞬だけ左手を突き上げて、そのまま振り向かずに駆け抜けて行った。


「じゃあな、グリーン」


あたしの後頭部をべしっと叩いて、健吾が走って行く。


グリーン?


翠、か。


「この……日本人なら日本語で言えー! とんちんかーん!」


健吾が見えなくなった時、背中がぞくっとした。


「べっくし! ……ヤロー」


あれ……まじで風邪引いたかもー


違和感を覚えて、ブンブン頭を振った。


「なんだ……?」


また、頭痛いや。


廊下の窓から見た景色は、どこまでも白く輝く、粉雪だらけの景色だった。










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