夏の空を仰ぐ花
「幸せにするっす。おれの大切なひとに、なってくれませんか?」


「もう! ……本当に……しつこい」


あたしが贈った花束を抱き締めて、涼子さんが泣いていた。


「涼子さん」


泣く彼女に駆け寄る本間先輩の後ろ姿を確認して、あたしは廊下を駆け抜けた。


そのあと、ふたりがどうなったのかは分からない。


でも、ただ、幸せを願ったのは紛れもなく事実で、本心で。


かつての戦友の幸せを、あたしは祈った。


涼子先輩。


真っ赤なチューリップの花言葉教えてやろうか。


廊下はひんやりつめたい空気が充満していた。


立ち止まり、窓の外に視線を投げ出して、あたしは呟いた。


「愛の、告白。もう一個は」


窓の外は、季節が混同していた。


春と、冬。


「……永遠の、愛」


その日、この海辺の街を彩ったのは、季節外れの結晶の雨だった。


なごり雪。


なごり雪の日に、涼子先輩は南高を去って行った。


涼子先輩。


卒業、おめでとうございます。














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