夏の空を仰ぐ花
「先輩、幸せになってね」


きっと、幸せになれるさ、涼子さんは。


そこに、真っ赤なチューリップを持った王子が来てるぞ。


気付いてあげなよ。


王子にしては涼しすぎる坊主頭だけど。


そろそろ、気付いてあげなよ。


あの王子、たぶん、夏井響也と同じ野球バカだと思うけど。


もう、気付いてあげなよ。


あんなに涼子さんのこと、想ってんだから。


ちょっとは見てあげなよ。


ただ突っぱねて肩肘張っていても、何も良いことないぞ。


って、あたしが言える立場じゃないけど。


「幸せになってよ、先輩」


ほら、とあたしは涼子さんの肩をバシバシ叩いた。


顔を上げた涼子さんが、あたしの肩越しに見て「あ……」と声を漏らした。


「涼子先輩! 卒業、おめでとう!」


ニッと笑って、あたしはきびすを返した。


教室を出る時、すれ違い様にうつむき加減で突っ立っている彼の背中を、


「男だろ! 当たって砕けて、砕け散ってしまえ」


バシーッと叩いた。


彼の背中がシャキッと伸びる。


「涼子さん!」


しつこくて悪りっす、そう添えて、本間先輩が言った一言に、あたしの胸が焦がれた。



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