夏の空を仰ぐ花
出社して行った母とほぼタッチの差で病室に入ってきた彼に言うと、


「あたし、手術の日決まったから」


「え……まじ? いつ?」


補欠は目を大きく見開いた。


「来週の土曜日」


カレンダーを見つめながら言うあたしの横で、補欠は固まってしまった。


無理もないことだ。


9月15日。


その日は、補欠の初陣。


地区大会開幕の日と手術の日が、これまた見事にかぶってしまったのだから。


「残念!」


あたしは、カレンダーを見つめて固まる補欠をど突いた。


「補欠の初陣とかぶっちゃった。ドラマチックー」


ほんと、ドラマだったらどれほどいいか。


現実になると、困ったなんてもんじゃない。


だけど、あたしは笑った。


補欠に、これ以上の心配も負担もかけるわけにはいかなかったから。


補欠は、本来ならばこんな事をしている場合じゃないのに。


本当は朝練をして、放課後も練習で、へとへとのはずなのに。


毎朝、登校前とキツい練習が終わったあと、あたしに会いに来てくれている。


毎日、一日だってかかさずに。


これだけでも、十分負担をかけているのに。


これ以上の迷惑をかけられない。


それに、あたし、太陽になるって決めたんだから。


「まじかよ」


補欠は、明らかに完全にうろたえていた。


「まじだ! まあ、しょうがないさ」


「しょうがないって……」


「あたし、ファイト!」


あたしは、天井に向かって元気に左手を突き上げた。


「補欠はど根性で勝て!」


でも、補欠は頷かなかった。


「翠……おれさあ」


嫌な予感がした。
< 452 / 653 >

この作品をシェア

pagetop