夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
9月10日。


手術の5日前の出来事だ。


朝、いつものように来てくれた補欠に、


「My Darling!」


あたしは、ベッドから飛び跳ねて抱きついた。


「嫌じゃー! 絶対にやだーっ!」


ムササビのように両手を広げて飛び付くあたしを、


「あっぶねえー!」


補欠は全身で抱き止めた。


その鍛え上げられたたくましい体に両手両足をからめて、あたしは全力でしがみついた。


「助けてくれ、補欠! ヘルプミー! ヘルプ、ミイーッ!」


SOS、SOS、と叫び散らすあたしの首根っこを、母が容赦なく捕える。


「このバカ娘が! おとなしく観念せい!」


「してなるものかあーっ!」


あたしは、補欠にしがみついた。


必死だった。


だって、自慢の長い髪の毛を切らなければならない、なんて看護師さんがふざけた事を言ってのけたのだ。


「補欠ううう!」


信じられん。


よくもまあ、いけしゃあしゃあと、このあたしにそんな抜けた事を言えたものだ。


「あの、翠」


補欠がオロオロしながら、あたしのスッピンを覗き込む。


「補欠! ヘルプミー!」


「いや、けどさ」


「イヤもケドもクソもねえ!」


「でも、こればっかりは仕方ないんじゃ……」


「NO!」


「……翠」


「いやっ!」


あたしは、補欠に胸に顔をうずめて、しがみついた。


嫌だ。


無理だ。


この髪の毛をバッサリ切るなんて、女を捨てるようなものだ。


ただでさえ、こんなに勇ましくて可愛げのない性格なのに。


それをショートにしたら、それこそ完璧な男じゃないか。


それに……何より……。




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