夏の空を仰ぐ花

夏色のキセキ

あたしは、思うのだ。


キセキとは、起きないから「奇跡」と呼ぶものではなく、己が起こすから「軌跡」と言える貴重な言葉ではないかと。


だから、キセキは起きてしまうものではないのかと。


それを教えてくれたのは、あたしの中に潜んでいた火事場の底力だった。


そして、夏井響也というひとりの男に出逢っていなければ、そんな力はあの時出て来やしなかっただろう。








青空にむくむく湧く、純白の入道雲。


「東北地方も梅雨明けになったと、気象台より発表になりなしたね」


朝、母がテレビを付けた瞬間に耳に入った話題は、あたしの心をわしづかみにした。


「オーウ、Destiny!」


ベッドの中から、窓の外いっぱいにひろがるスカイブルーを見つめた。


「ふむ、いよいよ、夏到来だな!」


なんてめぐり合わせか。


決勝戦の朝に梅雨が明けるとは。


このあと、あんな出来事がなかったら、あたしはむちゃくちゃをするような事はなかったのだと思う。


7時を過ぎた時、


「よっ! 翠!」


「おはー!」


ベッドを囲むカーテンから、結衣と明里がヌッと顔を出した。


「よー! 何だ何だ、おまえら! 朝っぱらからー」


ふたりが来てくれた事が嬉しくて、あたしはゆっくり体を起こして、でも、固まった。


「今日はな、どうしても翠を一目見たいというやつが居てな」


「連れて来た」


結衣と明里が顔を見合わせてニタついた。


そして、ゆっくりカーテンが開いて入って来たのは、それはそれは可愛らしい女の子だった。


「翠ちゃん!」


「えええっ……!」


こりゃあ、参った。


まさか、朝から驚かされるとは思っていなかった。

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