夏の空を仰ぐ花
「久しぶりだね」


転校する前は長めの黒髪をツインテールに結んでいたのに。


今は、前下がりのボブになっていて、でも、以前より可愛らしさが増した彼女だった。


「あっこー!」


淡いレモンイエローのTシャツにショートパンツ姿のあっこが半分笑顔で、半分泣き顔で、


「翠ちゃん!」


あたしに飛び付いて来た。


あっこは相変わらず小柄で、ハムスターみたいだった。


「私、何も知らなくて。だって、翠ちゃん何も言ってくれなかったから」


粉砂糖のような色白の肌が眩しかった。


「いやあ、すまーん。変な心配かけたくなくてな」


へへ、と笑うと、あっこは「もう」とあたしの肩をポカと叩いた。


嬉しかった。


あっこと再会できたことが、たまらなく嬉しかった。


「で、いつこっちに来たんだ?」


聞くと、恥ずかしそうに小さくなってあっこが答えた。


「昨日の夜に着いたの」


「そっか! よく来たな」


「うん。居てもたってもいられなくて」


「ん?」


「昨日、健吾くんからメールもらったの」


そう言って、あっこは顔を熟れたりんごのように真っ赤に染めた。




8/27 16:35
From 健吾くん
Sub
――――――――――――――
明日、決勝です
絶対に勝つから
おれの気持ちは何も変わっていません
また明日連絡します



「親の反対押し切って来ちゃった! 嬉しくて、信じられなくて。じっとしてるなんてできなくて」


健吾からのメールを見た結衣と明里は、


「げー! きもー!」


「キザー!」


なんてとことんバカにしていたけど。


「ひどーい! 健吾くんの良さ、どうして分からないのー?」


反抗したあっこの目はキラキラ眩しくて、素直だなと思った。
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