夏の空を仰ぐ花
「ひとりで飛行機に乗ったの初めてで、ドキドキしちゃった!」


お年玉の残りをはたいて来たのだと、あっこは言った。


恋のパワーの威力は底知れぬものだと思う。


内気なひとりの女の子を、ここまでアクティブにしてしまうのだから。


「でもね、どうしても来たかったの。観たかったの。健吾くんが野球してるところ」


すこし間を置いて、あっこは続けた。


「大好きな南高が優勝するところ、観たかったの」


あっこは強くなったと思う。


健吾に恋をした事で、見違えるように強くなった。


距離に負けることなく誰かを思う事は簡単な事じゃない。


けれど、それを乗り越えてあっこは強くなった。


友人の成長は猛烈に嬉しくて、少しだけ、やきもちを焼いた。


ほんの少し、悔しかった。


……悔しかった。












「具合はどうですか?」


昼を過ぎた頃、長谷部先生が病室にやって来た。


「先生」


パイプ椅子を立ち母が会釈をすると、先生もぺこりと返してきた。


「聞いたよ、翠さん。朝からモテモテだったんだってね」


「あたしが?」


聞き返すあたしの手首に指をあてがい、


「うん、異常ないね」


先生は脈拍を確認して頷いた。


「お友達がたくさん来てくれて賑やかだったって聞いたよ」


と今度はあたしの下まぶたを親指でひっぱると、


「うん、良好」


とにっこり微笑んだ。


「学校のお友達?」

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