夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
先輩の声は優しくて温かくて、でも、どこか寂しげで。


戦士たちの傷を癒すような、心穏やかな声だった。











「何やってんの?」


背後から聞こえた声にハッとして、我に返った。


「今日は何の物色?」


クスクス笑いながら入って来た補欠が、ジュース入りのグラスを乗せたトレーを勉強机に置いて、あたしの隣に立った。


「ああ、それ」


あたしの手のひらをじっと見つめて、懐かしいな、なんて補欠がしみじみと呟いた。


あの夏の日から、まだ一か月しか経っていないっていうのに。


「なんかもう、すっげえ昔の事みたいな気がすんだよな。今でも時々、信じらんねえっつうか」


そう言って、補欠はあたしの手のひらから、そっと甲子園の砂が入ったケースを取った。


「甲子園にさ、行ったんだよな。おれたち」


優しい目を半分にして、補欠が微笑む。


なんて優しい笑い方をする人なんだろうと、心がほっこり温かくなった。


「うん、行ったんだよ。甲子園に」


補欠が、連れてってくれたんだよ。


あたしを、甲子園に。


「だよな。変だよな。まだ一か月しか経ってねえのにな。何か……もう懐かしく感じるんだよな」


補欠がケースを傾けて西日にかざすと、中で砂がじゃれ合ってシャラシャラ繊細な音がした。


「ダメだな」


補欠が呟く。


「何が?」


「ほら、今までは毎日きつい練習してたから。引退したとたん、気が抜けてさ」


そりゃあもう一気に、なんて、補欠はケースを元の位置に戻した。


「けど、悪くねえなあ」


優しいまなざしが、あたしに落ちてくる。
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