夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story
飛び跳ねて叫ぶみんなの片隅に立ち尽くして、あたしは泣いた。


嬉しくてたまらないはずなのに、どうにも涙が止まらなかった。


涙の中、ふいにいつだったか花菜ちんの声が、耳の奥で鮮やかに蘇っていた。


――響也はやるときゃやる男なのよ


1塁を膨らみながら蹴って、2塁で止まった補欠が、


――何かしら結果出す男だよ、響也は


応援スタンドに向って左手を突き上げていた。


その姿を涙越しに見て、ああ、こういう事か、と納得した。


補欠は……夏井響也という男は、花菜ちんが言った通りの人間だった。


何も考えてなさそうで、淡々としていて、無表情で。


だけど、やる時はやる。


そういう人に、あたしは恋をしたのだ。


物事を中途半端なまま途中で投げ出すような補欠じゃないから。


その分、努力を寡黙に積み重ね続けて来た彼の背中を知ってるから。


だからこそ、涙が止まらなかった。


けれど、その裏。


結局、相手にひっくり返されて、サヨナラゲームセット。


巨大な放物線を描いた、打球。


マウンド上で補欠は帽子を取り、呆けたようにボールを目で追いかけながら立ち尽くしていた。


沈む、南高スタンド。


歓喜の渦を巻く、星匿工業スタンド。


その音響の板挟みに合う補欠は泣くわけでもなく、無表情のまま立ち尽くしていた。


いつまでも立ち尽くして、浜風にあおられている補欠のもとに、メンバーが駆け寄って行った。


岸野くんがその肩をそっと抱いた時、まるで何かのスイッチをポンと押されたように、補欠は左腕で顔を覆い隠しながらマウンドを下りた。


左腕の下、その表情がなんとなく分かった。


補欠は泣いていたんだと思う。


仲間の輪の中で泣くその背番号を見つめていると、横から相澤先輩がさりげなく声をかけて来た。


「終わったんだな。あいつらの、夏が」


「うん……」


頬を伝う涙を、甲子園を吹き抜ける浜風が冷やしていった。


「やっと、終わったんだな」


その一言は、先輩の後輩に対するねぎらいの言葉だったんだと思う。
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