夏の空を仰ぐ花
【夏井 響也】


「これ、さっきのハゲの名前か? なつい、きょうや?」


呪文のようにぶつぶつ、結衣は呟いていた。


「結衣! これは運命だ!」


結衣はその名前を埴輪になって見つめ続けていた。


「……ありえん」


と呟きながら。


どうせ、一目惚れだろ、とか。


結局、一目惚れじゃないかよ、だとか。


そう言われてしまえば、その通りなのかもしれない。


だけど、そんなやすやすとしたものじゃない。


ヒトメボレ。


そんなたった5文字で片付けられては、ほとほと困る。


じゃあ、一体何だ、言ってみろ、と言われてもこれまた非常に困り果てるが。


こんなにも広い世界の中で、同じ時代に生まれ、出逢った。


昨日と今日、二度も。


この南高で。


これは神が与えた運命ってやつだ。


これを運命と呼ばずして、何と言えというのか。


「運命だ!」


胸を張ったあたしに苦笑いしながら、結衣が言った。


「運命って……んな大げさな」


確かに。


運命なんて、元を辿れば偶然からなるもので。


じゃあ、ただの偶然じゃないかと言われたら、それまでのことで。


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