黒猫劇場
「ヴァージナルは、自分を低く見すぎだよ。あたしの家は代々、探偵って決まってる。他の何でもなくて、花屋でも仕立て屋でも靴屋でも学校の先生でも。それはね、ヴァージナルがここで蛙になっちゃうより、ありえないんだ」

 リグのたとえは何だかメルヘンチックだったけれど、確かなことだ。

「あたしは決まってることをやっているだけ。ヴァージナルが毎日、学校に行かなきゃいけないのと同じだよ」

 リグはそこでにっこり笑った。

「でも、ヴァージナルは自由なんだよ。なんでも出来る。あたしは下絵のあるキャンバスみたいなもので、色彩こそ自由。でも、ただなぞってるだけなの。綱渡りするみたいに、両足で必死になぞるだけ。でも、ヴァージナルは真っ白いキャンバスに何を描いてもいいの。それは線をなぞるあたしより、確かに楽しいこともたくさんあるけど、はるかに難しいことだよ」

「うん、いま僕はわからないんだ。何を描いたらいいのか。でも、リグはなぞるだけでも希望に満ち溢れてる」

 リグは僕の告白にびっくりしたようだった。顎に手を当てて、真剣な顔で考え込んでいるようだった。
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