黒猫劇場
 改札口を通り抜け、壁にかけられた時計を見ると、針は五時十三分を指していた。
 良かった。まだ、間に合う。僕は胸をなで下ろした。僕が時間まで休もうと、空いている椅子を探していると、後ろの方から声をかけられた。

「やぁ、ヴァージナル。今日もギターのおけいこかい?」

 駅員のおじさんがいつものように話しかけて来た。
 僕たちはいつも色々な話をする。二時間に一回しか電車が来ない田舎の駅だから、駅員さんも乗客も暇なんだ。待ちくたびれて寝てしまった人もいる。その点、ぼくたちは幸せだ。

「おじさん、ギターじゃなくてヴァイオリンだよ。いつも言ってるじゃないか」

 僕は少し口を尖らせて言った。

「悪い、悪い。昔、ギターを習ってたことがあってな。つい、間違えちゃうんだよ」

 おじさんは照れたように頭をかいた。

「おじさん、ギター習ってたの? いつ? 子供の頃に習ってたの?」
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