黒猫劇場
「そんなにいっぺんに色々聞くな、ヴァージナル。せっかちすぎるぞ」

 ぼくは思わず首をすくめた。それを見ておじさんはにっこり笑った。

「まぁ、いい。…俺の父親の話はしたことあったか?」

 ぼくは宙を見上げて、おじさんのお父さんの話を思い出そうと頑張った。

「うん、うん。聞いたよ。とっても厳しくて……、頑固で、でも、歌は上手いんだよね。だから、コンサートによく連れていってもらったって」

 本当は、おじさんに聞いた時はもっと色んなことを教えてもらった気がしたのに。なんだか、半分も覚えてないような気がして悲しくなった。

「そう、親父はプロの歌手だったんだ。沢山の人が親父の歌を聞きにやってくるんだ。すごく、うれしかったな。ステージの上の親父に向かって、沢山の人が拍手するんだ。すると、いつも鬼みたいな顔して怒ってるくせに、顔中くしゃくしゃにして笑うんだ。その時だけは、くやしいけど親父がかっこよかったな」

「それで、ギターはじめたの?」

「ああ。ほとんど、親父に無理やり習いに行かされた感じだったけどな。親父みたいになりたいって思ってたのも少しあった」
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