辻斬り
「おい、運転手! いーかげんこの女どもを黙らせろ!」

席の最後部を陣取った初老の男、灘庄之甫(なだしょうのすけ)が鴻上に向かって怒鳴った。

「まあお客さん、旅は道連れというじゃありませんか。ここはまあ穏便に…」
「何が穏便にだ、この馬鹿。こんな常識もねえ連中と一緒に旅をする義理なんて無いんだ。ぎゃあぎゃあうるせえおかげで…ああ…くそ、今ラジオで臨時ニュースやってたんだぞ! 聞きそびれちまったじゃねえかっ! 大体な、廃村とはいえ俺のふるさとなんだぞ。墓参りに行くついでに以前捜査で世話になった先生からどうしてもって言うから道案内を受けてやったのに、村を見世物にして面白おかしく盛り上がりやがって。お前らのそういうどクサレ神経が、日本を狂わせて…」
「おっさんうぜーよ! 偉そうにのたまってんじゃねえよ」
「っんだとこの野郎! 表に出るか?」
「やだやだ、何でもかんでもすぐ暴力。マッチョよねえ」
「めぐ、こんなガリガリのジジイ捕まえてマッチョだなんて…」
「精神論を言ってるのよ! えみ、あんた黙ってなさい!」
「黙ってろってどういう意味よ、めぐ!」
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