勇者様と従者さま。
3*ふたり旅

そんな駆け落ちみたいなことができるか!

 魔物を倒した日から数日。

 寝付いているステファンを放置するわけにもいかないので、一行は村にとどまっている。


 シュリは、久々に力を使って疲れたと言って引っ込んでいた。

 庭では、暇をもてあました討伐隊員たちが模擬試合など行っている。


 エヴァが聖剣のあるじとなったことを知ると、隊員たちは喝采をあげた。

「聖剣の勇者様!」

「エヴァ様は本物だ!」

 大騒ぎする彼らを鎮めるためにアーサーが数回怒鳴り声をあげたくらいだ。


 そんなことを思い出しながら、エヴァはぼんやりと庭を見つめていた。

 夕暮れどきである。


「エヴァ様」

 ふいに名前を呼ばれた。

「…従者さま」

 アーサーがこちらへ向かってくる。

「ステファン様が目を覚まされた」

「そう、ですか」

 エヴァの表情がわずかに明るくなった。

「…もう、お亡くなりになったが」

「…」

「エヴァ様に感謝していた。…己の心の弱さのせいで取り憑かれ、苦しんでいたのを救ってもらったと」


 エヴァは答えない。

 唇を噛んで、俯いた。

「…あなたのせいじゃない」

 アーサーは声をやわらげた。

「魔物と同化しすぎていたせいだ。もともと彼のたましいは限界だった」

< 32 / 93 >

この作品をシェア

pagetop