勇者様と従者さま。
 しばらくたって、シュリの手が離れた。

 エヴァとアーサーは頭をあげる。

 もとから床にいたエヴァはともかく、アーサーは座っていた寝台から叩き落とされた形だ。したたかに打ち付けた頬をさする。


 そんな二人の前で、シュリは俯いて微動だにしない。


「…シュリ?」

 エヴァが恐る恐る声をかけた。


「……」

 かすかに、その口元が動いた。

「え?」


「そうか…!」


 シュリは顔をあげる。


 銀の両目が、抜き身の剣のようにぎらつく。


 唇が、くっと弧を描いた。



「我を試すか…」




「…<ハルジニア>…!」




「…はる、じにあ?」

 聞き覚えのない単語だ。


 エヴァの声にシュリははっと身を強張らせた。

 獰猛な笑みは消え、まるで夢から覚めた子供のようにぱちぱちと瞬く。


「…いや、気にするな。それより、…わかったぞ。恐らく」

「ほ、本当ですか!?」

「どういうことだ?」

「あー…朝が来てからのほうが良いだろう。今日はもう休め」

「…シュリ?」

 どこかぎこちない態度に、アーサーが目をすがめる。


「…我も休む。ではな」

 言うが早いか、シュリの輪郭がぼやけた。


「あ…シュリ!?」

 さすがのエヴァにもその不自然さはわかる。

「…本体に戻ったようだな」

 アーサーが嘆息した。


「…仕方ない、エヴァ様も早く寝ろ。寝坊するなよ」

「しませんよ、カレンさんも一緒ですもの!」

「…カレンさんを蹴飛ばすんじゃないぞ」

「そんなことしませんったら!…おやすみなさい」


 エヴァは廊下に出た。

 …何かが、動いた気がして見渡す。

 だが、気のせいだったのか特に何も見つからなかった。



 部屋の寝台ではカレンが静かに眠っていた。

 痛ましく思いながらも、その隣に潜り込む。



 布団の中は、やけに冷たい気がした。

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