勇者様と従者さま。
5*どっきりゴーストタウン

魔物じゃなかったら困るんですか?

 ある領主の館。エヴァたちはそこに滞在していた。

 騒ぎを起こしていた魔物も倒したし、そろそろ次の街に行こうかと、アーサーが考え出した頃。


「従者さまー!」

 エヴァが部屋に飛び込んできた。

 その瞳はきらきら輝いている。

 …経験上、嫌な予感しかしない。

「従者さま、さっき領主さまがおっしゃってたんですけど、」

 エヴァがそう、切り出した内容は、

 …想像通り、ろくでもないものだった。


「…誰も住まなくなった町?」

 聞きかえすアーサーに、エヴァは、「はい!」と元気よく頷く。

「なんだか、幽霊屋敷?っていうのがあるんですって!そのタタリで誰も住めなくなったんですって!!」

「なんでそんなに楽しそうなんだ、エヴァ様…」

 アーサーはぐったり椅子に座り込む。

「…エヴァ様の専門は魔王!魔物だろうが!幽霊なんてどうでもいいだろう」

「だって!その幽霊ってもしかしたら魔物じゃないですか?きっと魔物ですよ!魔物です!ねえ、シュリ?」

 エヴァは三段活用のように自己完結。

 腰に下げた剣から、シュリのうんざりした声が聞こえてきた。

「…どうしても行きたいらしいぞ」

 シュリも散々この三段活用もどきを聞かされたに違いない。

 アーサーは同情しつつも、エヴァに鋭い視線を飛ばした。

「物見遊山じゃないんだからな」

「…いえ、そんなことは」

 途端にエヴァが視線を泳がせた。

 わかりやすい勇者である。アーサーはしてやったりと笑みを浮かべ、

「…大体有名な幽霊屋敷というなら、最近の話じゃないだろう。魔物が増えたのはこの数ヶ月だぞ」

 手際よくエヴァを追い詰めてゆく。…旅に出てからこんな技術ばかり身についた。

 が、エヴァもおとなしく黙ってはいなかった。

「…困っている人を助けるのがわたしのつとめです!…それとも、従者さまは魔物じゃなかったら困るんですか?」

 エヴァはにこりと笑う。

「…まさか、幽霊がこわいから困っている民を見捨てるなんて…」

「そんなことはない!」

 アーサーが反射的に叫ぶ。

 ―形勢逆転、だった。


「…ばかな奴」

 シュリが小さく呟いた。

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