勇者様と従者さま。
 確かに、その町は異様な雰囲気に包まれていた。

 …太陽は照っているのになぜか薄暗い。

 枯れた木々で烏がぎゃあぎゃあと鳴き交わしている。

 ひんやりとした風が頬を撫でていった。


 アーサーは仏頂面を崩さない。

 対称的に、エヴァは跳ねるような足どりである。

 後ろを歩いている人型のシュリは、呆れたように二人を見守っていた。

「結構大きい町だったんですねー」

 エヴァの言う通り、周りには打ち捨てられた民家がひしめいている。

 年月を経て古くなってはいるが、どれもなかなかに豪華な家だ。

 …立派なゴーストタウン、だった。

 古び方から言って、やはり魔物は関係ないのでは…と、アーサーは思う。

 その先はあえて考えない。

「…で、その幽霊屋敷というやつはどこにあるんだ」

「この先みたいです」

「…あれか」

 シュリが呟いて指したのは、小高い丘の上。

 見るからに、幽霊屋敷といった風情の屋敷が建っていた。

 かなり大きな建物だが、外壁も傷み、窓も破れ、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。心なしか周りの空気もいちだんとどんよりしている。


「…そ、想像以上ですね」

 エヴァがごくりと唾を飲み込んだ。



 近くに寄って見ると、より一層幽霊屋敷だった。

 正直入りたくはないが、それを口にしたら負けのような気がして、アーサーは顔をしかめる。

「…我は帰りたい」

 シュリがアーサーの心情を代弁するかのようにぼやいた。

「なんです、シュリ、こわいんですか?」

 さすがのエヴァも声が震えている…と思ったら、あろうことか笑っていた。

「何があるんでしょう!わくわくしますね!」

「…我は肝試しなどして喜ぶ歳ではないのだが」

 諦めまじりに言う御年数百歳。

「シュリったら、もう。ほらー、行きますよ!」

「あ、おい、エヴァ様っ!?」

 だが案の定エヴァはまったく聞き入れずに駆け出した。

 アーサーとシュリは慌てて後を追ったのだった。

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