ヒトノモノ

木村さんに連れてこられたのは、非常階段の踊り場。




ここは清掃のおばさんがたまに通るくらいの人気の無い場所だ。




シン・・・っとして雑音一つ聞こえない。




非常階段独特のヒンヤリ感が、あたしを包んだ。





・・・もう俺に関わるな・・とか、会社辞めてくれ・・とか言われるのかな・・。




確かに、今物凄く会社にい辛い。





「・・あの・・・木村さん。あたし・・会社辞めます・・」




あたしは、木村さんが口を開く前にそう言った。





「えっっ?!?!なんで・・?!」





木村さんはあたしの思いがけない発言に驚いたようで、目を丸くした。





「・・だって・・木村さんに迷惑かけちゃうから・・です。
その・・・この間のこととか・・あって・・・避けられてたし・・」




木村さんは、はぁ~~とため息をついた。





「優子・・」




急に名前を呼ばれてあたしはビクっとする。




俯いていた顔を上げて、木村さんを見る。




木村さんは真っ直ぐあたしを見ていた。





「優子・・。避けてたのは謝る。ごめんな・・・でも・・・会社は辞めなくても・・・」





「・・え?」





「辞めなくても・・・っていうか、辞めないでくれ。」





「えっと・・・でも・・い辛くなります・・」




あたしはまた顔を俯かせる。






「優子、おいで・・・」





木村さんはあたしをグイッっと引き寄せた。





あたしの鼓動は一気に速くなる。





「俺、今からずるい事言うけど・・・聞ける?」




あたしはコクンと頷いた。





< 10 / 72 >

この作品をシェア

pagetop