ヒトノモノ
木村さんに連れてこられたのは、非常階段の踊り場。
ここは清掃のおばさんがたまに通るくらいの人気の無い場所だ。
シン・・・っとして雑音一つ聞こえない。
非常階段独特のヒンヤリ感が、あたしを包んだ。
・・・もう俺に関わるな・・とか、会社辞めてくれ・・とか言われるのかな・・。
確かに、今物凄く会社にい辛い。
「・・あの・・・木村さん。あたし・・会社辞めます・・」
あたしは、木村さんが口を開く前にそう言った。
「えっっ?!?!なんで・・?!」
木村さんはあたしの思いがけない発言に驚いたようで、目を丸くした。
「・・だって・・木村さんに迷惑かけちゃうから・・です。
その・・・この間のこととか・・あって・・・避けられてたし・・」
木村さんは、はぁ~~とため息をついた。
「優子・・」
急に名前を呼ばれてあたしはビクっとする。
俯いていた顔を上げて、木村さんを見る。
木村さんは真っ直ぐあたしを見ていた。
「優子・・。避けてたのは謝る。ごめんな・・・でも・・・会社は辞めなくても・・・」
「・・え?」
「辞めなくても・・・っていうか、辞めないでくれ。」
「えっと・・・でも・・い辛くなります・・」
あたしはまた顔を俯かせる。
「優子、おいで・・・」
木村さんはあたしをグイッっと引き寄せた。
あたしの鼓動は一気に速くなる。
「俺、今からずるい事言うけど・・・聞ける?」
あたしはコクンと頷いた。