学生さん
第29章
     29
「ミオ、君は優秀な学生だね」 


 あたしのゼミの担当教官はいつもそう言ってくれた。


 あたしも研究室にいて、だいぶアメリカの大学院の雰囲気に慣れてしまっている。


 謙太の受賞作は単行本化され、ネット書店でも販売されていた。


 あたしも一冊買って読んでみた。


 確かに彼の作家としての第一作はとても面白いと思える。


 警察小説だが、味わい深いところもあった。


 謙太の描く刑事が、どこかしら松本清張の作品に出てくるそれとオーバーラップして見える。


 古いタイプの刑事小説だが、それだけ世に出す価値があったのだろう。


 大賞ではなく、次点で特別賞までしか獲ることが出来なかったとはいえ。 


 あたしは毎朝午前九時頃に、テレビ電話で彼と話をしている。


 その時間帯は時差の関係で、日本は翌日の午前四時頃だ。
< 173 / 200 >

この作品をシェア

pagetop