magnet


「こんな事言うのは酷だけれど、朔夜は貴女をちゃんと見ていないのね。聞いていたのと違って少しがっかり」


遠ざかる足音に声すら掛けられなかった。


直面に耐えられない。面と向き合えない。頭が酷くグチャグチャだ。


いざと言うとき、私は弱い人間になってしまう。


ただただ、ギュッと掌を痛いくらい握りしめていた。


「こんな自分が……嫌い……っ」


声は風に拐われたが、次は口の中で再び大嫌いと呟いた。


朔を想って思い出した事がある。


『でももし、付き合う事になって、その相手が誰か別の人を片隅に想っていたらどうします?』


いつかの日に言ったもしもの話。


本当はもしもじゃなくて、実際朔がそうなのかもしれない。


そうなのなら……


今もまだ坂上さんを想っている。



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