magnet


それは錯覚だと思って首を振り、視線を湊に戻す。


腕の隙間から視線を投げ掛けてくるその目は何も宿っていない。いや、切なさを含んだ目だった。


「……それもそうですね。でも、俺は――」


と言った所で唇を噛んで私に背を向けるように寝返りを打った。


「俺、このまま寝ていくんでここちゃん先輩はもう戻ってくれてもいいですよ」


「はいはい。邪魔だよね。教室へ戻るよ」


「分かってんじゃねぇですか」


「……」


返す気力もなく、でも一言だけ口にした。


「私も悪いところあるけど、口喧嘩してまで私に話し掛けてくる意味が分からない」


保健室を出るとちょうどチャイムが鳴って、早足気味に教室へ戻った。


――それから湊を見掛けることは無くなった。




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