magnet
瞬間。ピクッと跳ねた体にハッと意識が戻る。
「な、んでもないから。うん。続けて」
サッと手を引っ込めた。
何でもないなんて、バレバレな嘘。
アホか私は。
「――先輩。俺に触れたかったんですか?」
そういう訳じゃないよ。と、自分に言い聞かせるように細く呟いた。それは相手に届くには十分な声だった。
「俺は……先輩に触れたいです。触れていい、ですか?」
そう言われて俯いて。いつかもこんなこと言われたなと思い出す。だけど、直感的にいつかとは違うと思ってしまう。
声が、出なかった。
「っ……」
正確には出したくなかった。
ただ、温もりを感じたい。なんてことを思っていたのだ。
ふわり、と温もりが私を包んだ。