モテる弟をもつ双子の姉の地味子の物語


海は次第に激しくなる腕の痛みに顔を歪ませる。

なんとか着替えおわり、よろよろと風呂から出て部屋へと向かった。

ぽたり、

拭ききれていない髪の水気が水滴となって落ちた。
















翌日。

「ふぁあ、」

よく寝た、と思いながら遥は目を覚ました。

時計を見れば七時。

まだ少し頭と足が痛むが、動けないほどではない。

部活に完全復帰するのは難しいが、少しなら練習に参加できるだろう。

携帯を手に取ると、顧問の八木からメールが来ていた。

8時に迎えに行く、とだけ書かれている。


とりあえずすっきりしようと、顔を洗うために洗面所へと向かった。

自分の顔を鏡で見て、不思議そうに頬に触れる。

「・・・痕?」

涙の痕が残っていた。

しかし、自分は泣いた覚えはない。

「・・・。」

昨夜の事を思い出し、複雑な想いが遥を締め付ける。

遥は理子に罪悪感を感じていた。

もしかしたら、これは理子の涙の痕かもしれない。

どうして自分の頬に彼女の涙が落ちたのかわからないが、

悲しませたことは事実。


罪悪感を忘れたくて、遥は手で水をすくい顔に思いきりかけた。

ばしゃんっ



コンコン、

「筧さーん、朝食をお持ちしましたよ。」

ガラ、と入ってくるナースにありがとうございます。と礼を言った。

顔を洗ってから朝食を食べようと箸を持ったが、

手が進まなかった。

「・・・。」

昨日の理子が言っていた言葉が脳内でぐるぐるとまわる。

「っ・・・。」

理子から告げられた想い。

海と冬樹。

自分は、海と付き合えることなどできない。

一線を越えることなんて、ありえないのだ。

海が好きなのは冬樹、ならそれを応援してやるのが家族としての義務。


「っ・・・んなこと、できねえよ。」


冬樹なら、許せると思っていた。

けど、それは間違っていたのかもしれない。

忘れるどころか、日に日に強くなる想いに遥は戸惑っていた。


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