モテる弟をもつ双子の姉の地味子の物語
海は次第に激しくなる腕の痛みに顔を歪ませる。
なんとか着替えおわり、よろよろと風呂から出て部屋へと向かった。
ぽたり、
拭ききれていない髪の水気が水滴となって落ちた。
*
翌日。
「ふぁあ、」
よく寝た、と思いながら遥は目を覚ました。
時計を見れば七時。
まだ少し頭と足が痛むが、動けないほどではない。
部活に完全復帰するのは難しいが、少しなら練習に参加できるだろう。
携帯を手に取ると、顧問の八木からメールが来ていた。
8時に迎えに行く、とだけ書かれている。
とりあえずすっきりしようと、顔を洗うために洗面所へと向かった。
自分の顔を鏡で見て、不思議そうに頬に触れる。
「・・・痕?」
涙の痕が残っていた。
しかし、自分は泣いた覚えはない。
「・・・。」
昨夜の事を思い出し、複雑な想いが遥を締め付ける。
遥は理子に罪悪感を感じていた。
もしかしたら、これは理子の涙の痕かもしれない。
どうして自分の頬に彼女の涙が落ちたのかわからないが、
悲しませたことは事実。
罪悪感を忘れたくて、遥は手で水をすくい顔に思いきりかけた。
ばしゃんっ
コンコン、
「筧さーん、朝食をお持ちしましたよ。」
ガラ、と入ってくるナースにありがとうございます。と礼を言った。
顔を洗ってから朝食を食べようと箸を持ったが、
手が進まなかった。
「・・・。」
昨日の理子が言っていた言葉が脳内でぐるぐるとまわる。
「っ・・・。」
理子から告げられた想い。
海と冬樹。
自分は、海と付き合えることなどできない。
一線を越えることなんて、ありえないのだ。
海が好きなのは冬樹、ならそれを応援してやるのが家族としての義務。
「っ・・・んなこと、できねえよ。」
冬樹なら、許せると思っていた。
けど、それは間違っていたのかもしれない。
忘れるどころか、日に日に強くなる想いに遥は戸惑っていた。