エルタニン伝奇
「氷の美姫には、エルタニン王家に関わる秘密があるという噂もあります。神官らにしたら、できることなら自分たちが参加したいぐらいなのではないですか? 重大な秘密なら、我々のような兵士どもが、ぞろぞろついていくのも、好ましくない。でも過酷な旅なのもわかっているから、自分たちは行きたくない。それならラス様を指揮官として送り込めば、王家の不都合になるようなことなら、ラス様が何とかしてくださるでしょう。それに」

隊長は一旦言葉を切った。
少し言いにくそうに、ラスを見る。

「氷の美姫を探しに行ったものは、帰らないと聞きます。彼らからしたら、我々が帰らないなら秘密は守れる。・・・・・・王位も空席。元の、自分たちの天下に戻るというわけですよ」

「王家の血が絶えても、自分たちさえ好き勝手にできれば良いというのか」

ラスの言葉に、隊長は、そういう奴らです、と乾いた笑いをこぼす。

「そこまでわかっているなら、中止にしたいところだが。イヴァンからの正式な申し出を、反故にするわけにもいかんな」

そもそも、そんなことはラス自身、わかっていたことだ。
神官らの企みに乗せられた形ではあるが、イヴァンの、氷の美姫を捜したかったのは事実である。

中止にする気などない。
だが、みすみす兵士らを見殺しにするのも躊躇われる。

「今回のラス様暗殺未遂で、イヴァンを訴えれば、中止にすることは難しいことではありませんが。すでにイヴァン皇帝にも、今回のことは知らせが飛んでいますし」

「もしかしたら、今回の援軍要請自体、皇帝は知らないのかもな。ガストン伯が、今回の計画のために、勝手に要請したのかもしれん。神官どもも、ガストン伯と組んでいるのかもしれんな。お目付役が、同行しているサダルスウドということではないのか?」

「今回の援軍要請に関わった神官を、徹底的に調べましょう」

隊長は立ち上がると、急ぎ足で部屋を出て行った。
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