エルタニン伝奇
第六章
次の日は、早くから隊の編成を行い、近衛隊を除く残りの半分を先発させた。
後の半分は、ラス率いる近衛隊が国境でイヴァンの隊と合流した後、合図を待って、遙か上空から先発隊・近衛隊を追う。

「ラス様。近衛隊、準備完了しました」

近衛隊長が、ラスの前に跪く。
頷き、ラスは傍らの後発隊の隊長を務める壮年の兵士に向き直った。

「では、頼んだぞ」

「お任せください。王も、お気を付けて」

兵士は拳を胸に当て、頭を下げる。
ラスは少し離れたところで見送るルッカサ女王に歩み寄り、手を取って軽く唇をつけた。

「では女王様。御自(おんみずか)らのお見送り、感謝します」

ラスの礼に、満足そうに微笑み、ルッカサ女王は傍の侍女から小さな袋を受け取った。

「ラス様、これを」

女王が袋から取り出したのは、不透明な水色の石のピアスだった。

「守り石ですわ。出過ぎた真似かもしれませんが、どうぞ、ご無事で」

どうやら女王は、ラスを相当気に入っているようだ。
ただ気に入っているだけなのか、恋なのかはわからないが、その気持ちの前では、女一人を血祭りに上げたラスの所業など、記憶の彼方に消し飛んでしまうようである。

女王の熱っぽい視線を受け、ラスは口の端を僅かに上げた。
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