遠い夏から、あの頃のキミへ
遠い今
「あつ……」
目が覚めると部屋は蒸し風呂みたいだった

登った太陽は、もうかなり高い
つられたセミも、もう精一杯の鳴き声を上げている

「あっつい……」
寝汗でベタベタしたタンクトップが気持ち悪い

ボサボサの髪
寝苦しさの証拠のように乱れたベッド
シーツも心なしか湿っぽい

これが暑さだけのせいでないことを知っている

覚めきらない頭で、部屋を見渡し
壁にかけてある時計をみる
もう11時だ

いくら夏休みとはいえ、昼前まで寝てるようでは健全な生活習慣とはいえない

「シャワー……かな」
ベッドからモゾモゾと這い出して、床へと降り立つ

自分の足で立った時に、こめかみに軽い鈍痛

立ち眩みとは少し違う、ゆっくりと頭の中に残る違和感

この季節は、いつも大体こうだ

フラつく足元と折り合いをつけながら、ちゃぶ台とキッチンの間をすり抜けて、お風呂場のドアを開ける

日の差し込む窓から離れたお陰か、少しだけ涼しい

汗を吸って少し重くなったタンクトップを苦労して脱いで
そこで、ふと鏡に写る自分の姿が目に入る

少し、赤みがかったボサボサの髪
目の下には、うっすらとクマが浮かんでいる

我ながらヒドい顔
こんなの他人様には見せられないな、と一人で嘲笑う

だから夏は嫌い……

暑くて、虫がうるさくて……

なにより、あの日を思い出してしまう

沈んでいく思考を振り払うように、下着を脱いで浴室へと入る

蛇口をひねり、手で温度を確かめながら、少しぬるいくらいのお湯にする

頭からシャワーを浴びて、汗と一緒にくすんだ思考まで流すようにジッと

何分そうしていただろう
キュッと、蛇口を閉めて瞳を開けると眠気と頭痛は幾分マシになっていた

「そうだ、約束してたっけ」
おおざっぱに体を拭くと浴室を出た
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