『ただ片想いに戻っただけなんだ』
帰りの車の中。


私の心臓はずっとドキドキと音を立てていた。


彼は嬉しそうに、少し浮かれているのが私にも分かって。



そんな彼の姿が嬉しくて愛おしくて。



またドキドキした。



『実久ちゃんとキス出来て嬉しい』



素直な言葉で、私の目を見て言ってくれた。



『実久ちゃんって、職場の人と付き合ってたことはあるん?』



彼が明るい声でたずねて来た。



『ないです!!』



私は即答した。



私がそう答えると、彼はもっと嬉しそうに、



『じゃあ職場で実久ちゃんとキスしたのって、俺が始めてってことやんな』



嬉しそうに、満足そうに、彼は目を細めながら言った。


私は照れながら小さく頷いた。



こんなやり取り。



結構いい年をした大人の会話とは思えない。


そんなやり取りを幸せだと思えた。



『手、つないでいいか?』



そう言うと彼は私の返事を待つこともなく、私の手を優しく握った。



『今日は手、温かいな』



運転する彼と、車の中で手をつなぐ。



私には初めての体験。



つながれたその手から、彼の体温を感じられて。



彼の手の温もり、大きさ、優しさが伝わって来た。



この手が私だけの物になればいいのに。



そんな風に少し思って、小さく唇を噛み締めた。



だけど今は、少しの間だけでもいい。



少しの間だけでもいいから、この幸せが続けばいい。



そう思えるぐらい幸せな気持ちでいっぱいだった。


男の人を愛おしいと思えた。


久しぶりの感覚。


ううん。


初めての感覚。


気持ち。


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