BLUE HEARTS

昼過ぎ。俺は大桃街道沿いにあるバッティングセンターにいた。

一階は車三台分の駐車場。錆びた鉄骨階段を上がり、右手のアルミ扉を開ければビリヤード場。正面がバッティングセンターだ。

右から80、110、120、100キロの速度があり、天井は低く、奥行きも狭い。

自動販売機と同列に並んだコインゲーム。格闘、麻雀、シューティング。

乱雑に置かれたパイプ椅子は、煙草を押しつけた痕(あと)が散見された。

北斗七星だってある。

ここが俺達のたまり場。
ああそうだ、紹介するよ。

瓶のコーラをおしゃぶりのように吸っているのは大嶋昇太郎。

液晶で身だしなみを整えているのは高畑創(はじめ)。

三台の携帯で器用に女とやり取りをしているのは武井悠哉。

皆、小学校からの馴染みでね。癖はあるけど、いい奴らなんだ。

仲良くしてくれなんて言わない。名前だって覚える必要なんかない。A君、B君、C君で充分さ。

なんて言ったら怒られるかな。


「なあ、門脇優花っているだろ。あいつってさ、どんな印象?」

「どうしたんだよ急に」

「いいから答えろって」


まず口を開いたのは悠哉だった。


「堅物(かたぶつ)だろ。いい子ちゃんってのは壁を作りたがるからな。それを掘ろうにも、あるのは銀のスプーン一本だけ。電動ドリルでもありゃ話は別だけど、ああいう女を惚れさせるには手間が掛かる。どのみち俺ならパスだ」


次は昇太郎。


「悠哉は簡単な女しか見てねえから。俺はいい子だと思うぜ」

「おい、俺は別に悪いとは…───」

「───…まあ落ち着けよ。何て言うか門脇って、いつも一生懸命だろ。行事の準備、部活、委員会。上から目線みたいだけど、俺はいい子だと思う」


続けて創(はじめ)。


「前にあいつが学校遅刻した時があってよ。聞いた話だと、通学途中に急に雨が降ってきて、たまたま通り掛かった花屋の花を店の中にしまうのを手伝ってたんだと。馬鹿だよな。でも悪い奴じゃない。いや、いい奴だよ門脇は」

「で、これなに」

「あいや、ちょっとな」


いい奴。

だな。

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